- 2015-3-28
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2001年12月8日、「マッスルミュージカル」は誕生しました。
テレビの深夜番組「ケイン・ザ・マッスル」で集められた筋肉自慢の男女数十名、エンターテイメントとは無縁のアスリート達が必死にパフォーマンスをしている姿を思い出される方もいらっしゃるでしょう。
彼等の身体能力と僕の想像力とスタッフの忍耐力から生まれた、新しい舞台のジャンル、スポーツミュージカルです。
彼等の身体能力だけを見たいのならば競技場に行けば良い、「マッスルミュージカル」は、競技場ではなく劇場空間で魅せるエンターテインメントです。
日本のミュージカルの歴史は浅く、又、物まねは上手いが独創性に欠けると云われる日本人が、初めて世界に発信した、日本発のオリジナルミュージカルです。
当時の深夜番組のテーマである「マッスル(筋肉)」に、パフォーマンス、レヴュー、ミュージカル、さて、どれを付けるのか、「すべて、音に合わせて作っていくから、ミュージカルと云って差し支えないでしょ」と云うと、すんなり「マッスルミュージカル」と云う不思議なタイトルが歩き始めた。
テレビ番組で作る過程を放送し、劇場にお客様を集める、土俵の違うテレビと舞台の新しいコラボレーションの始まりだった。
例えば「ジャンプロープ(縄跳び)」と云う演目を創るのに、先ず、作曲家は稽古場に足を運んで戴き、一緒に縄跳びを見てテンポを決める。新しい技を開発する時にも、その技を見てもらいアレンジを相談する。そんな試行錯誤を何度も繰り返し、やっと一つの演目が生まれる。
ミュージカルナンバーは、一挙手一投足が音に合っていなければならない、とても細かな作業だが、その積み重ねが佳い作品に繋がると僕は思っている。
手具(新体操の小道具)に於いても、女子新体操のリボンをマッスル版に改造、幅は3倍、長さも2倍近くに変え、重さも3倍にして舞台効果を狙う。女子の上腕三頭筋(俗にふりそでと云われている箇所)は悲鳴をあげるが、ふりそで防止にも一役かっている。
ジャンプボックス(跳び箱)も演者はすべてダンスの如く、音楽にタイミングを合わせなければならない。踏切も着地も転回も輪くぐりも、作曲家には技に合わせてアレンジを変えてもらった。
ミュージカルは音楽が命、作曲家に古いミュージカル映画を観てもらい、あのシーンの雰囲気、このシーンのリズムと、随分悩ませた。
台本は作らず、構成表のみ、しかし1景1景にストーリーがあり、それを20数景積み重ねたレヴュー方式にした。
こうして日本人が創るオリジナルノンバーバル(台詞のない)ミュージカルは誕生した。
ラスベガスでは2度に渡ってロングラン公演を果たした。
2006年3月1日〜4月29日(2ヶ月公演)リビエラホテル、2007年5月20日〜11月11日(6ヶ月公演)サハラホテル。
当地では「日本からブロードウエイ方式のショウがやって来た」と新聞を騒がせ、その年の新作部門で賞を頂いたりと、高評価だった。
「シルク・ド・ソレイユ」が席巻していたラスベガス、製作費に糸目をつけないショウビジネスである。片や日本からやって来た、身体一つの、言わば「裸一貫ミュージカル」、勿論、相手にとって不足はない。
その結果、宣伝不足は否めなかったが、シルクの出演者もよくマッスルを観に来ていた。勝負は五分五分であったと思う。ラスベガス公演は、出演者にとっても僕にとっても大変に貴重な経験だった。
エンターテインメントの本場米国がぐっと近づいた。
作品を創る過程でアイディアを出すのは誰にでも出来る。しかしそれを舞台上で具現化するのには、すべての出演者とスタッフの知力、体力、忍耐力が不可欠である。その力の集結から数々の、手前味噌で申し訳ないが、マッスル的傑作が生まれた。幾つか紹介します。
「柔タンゴ」
柔道の乱取り稽古がいつの間にかタンゴの音楽にのり、足払いがダンスに変わる、柔道着を着た部員が必死に踊っているのか稽古をしているのか、体育会系笑える汗と汗のタンゴで柔道。
「BODY SLAP」
全員が同じリズムを刻み、手のひらで身体を叩く。音楽は何も使わない、身体を叩く音だけが会場に響きわたる、これぞライブの真骨頂、殆どの人が、聞いた事のない音空間を体験する事によって脳髄がざわめく。
「だるまさんがころんだ」
正に逆転の発想、遊びのすべてを逆立ちで行う、見た事ありそうで絶対見た事のない、逆さま遊びの珍風景。
「フットドラム」
基本は和太鼓パフォーマンス。しかし太鼓は使わず、素足で床を踏み鳴らし、バチを手に持ち、足の音に合わせる。ない筈の太鼓が想像力によって段々見えて来る。会場によってその音色は変化する、太鼓のいらない省エネパフォーマンス。そのかわり大腿四頭筋は大活躍筋?と化す。
「けんばん君」
ピアノ鍵盤の擬人化。白鍵黒鍵に扮したメンバーが腕立て伏せのポーズで並び、伏せる事で音が出る。例えば「カエルの歌」ドレミファミレド ミファソラソファミ ドドドドドドレレミミファファミレド、これだけでも「ド」役は9回腕立て伏せをしなければならない。「結婚行進曲」などは上腕二頭筋泣かせで、1曲で50回「ド」役は腕立てをしなければならない。誰が「ド」に選ばれるか、ストーリーは何種類もあり、メンバーはその度に戦々恐々としている、ちなみに、女子も参加しています。
「マッスル版回転寿司」
お店に入ると板前さんが、ただバック宙(回転)をしている。
その他「100m競走」「松葉杖タップ」「スピードスケート」「腹筋デコレーション」「ワニの腕立て伏せダンス」「イルカの前転ショウ」「長ネギ主婦バトントワラー」etc etc。
タイトルを聞いただけでもちょっと怪しく、わくわくしませんか。
「マッスルミュージカル」とは、出演者がただ力まかせに、跳んだり跳ねたりしているのではなく、その高い身体能力に「笑い」とストーリーを加え、舞台芸術で彩った贅沢なオリジナルスポーツミュージカル、海外でも日本でも、3世代で楽しめる良質なエンターテインメントです。
中村龍史